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2008年 06月 12日

沢木耕太郎 EPレビュー

10日の朝日新聞朝刊に沢木耕太郎のイースタンプロミス評があがっているとお知らせいただいた(ありがとうございます〜)ので、調べてみました。
なかなかいい評ですが、もろネタバレなので隠しますね。そして「三人の愛憎」の3人の中にナオミ・ワッツが入っていないところが特に同意見です(笑)
銀の街から
イースタン・プロミス 秘密を抱えた男の深い暗さ 沢木耕太郎


 久しぶりに震えるような映画を見た。陰鬱で残酷だが、すべてが黒光りするように輝いている。



 まず、若者が理髪店の椅子に座っている男のノドをナイフでかき切るところから始まる。そして、雨の中、ドラッグストアに助けを求めて入ってきた少女が、足元に大量の血を流して昏倒するところへと続いていく。
 いったいこれはどのような映画なのだろう? しかし、そんな疑問を差し挟む暇も与えられないまま、私たちは一気にロンドンの闇の世界に連れ去られていくことになる。
    *
 いま、イギリスには大量のロシア人が移住してきている。とりわけロンドンでは、エネルギー資源によって富裕になったロシア人と、貧困から抜け出そうとしてやってきたロシア人とがゆるやかに結びつき、ひとつのコミュニティーを形成しはじめている。そして、そのコミュニティーの負の接着剤として機能しているのが、ロシア・マフィアなのだという。
 ドラッグストアで昏倒した少女は妊娠しており、子供を産み落とすと、どこの誰かもわからないまま死んでしまう。その出産に立ち会った助産師は、ひとり残された赤ん坊のために、唯一の所持品であるロシア語の日記を手掛かりに少女の身寄りを探そうとする。
 その日記には、一枚のロシア料理店のカードがはさまれており、そこを訪ねることで、平凡な助産師がロシアのマフィアと関わりを持ってしまうことになる。温厚そうな料理店の主人。出来の悪そうなその息子。そして、得体の知れない運転手。この三人の男が、助産師の前に立ちはだかるのだ。
 運転手のニコライを演じているのはヴィゴ・モーテンセン。監督のデヴィッド・クローネンバーグと組んだ前作の「ヒストリー・オブ・バイオレンス」の主人公がそうだったように、秘密を抱えた男を演じるモーテンセンの深い暗さが、この「イースタン・プロミス」という映画に、次に起こることを予測させないサスペンスを呼び込む。
 死体の処理を任されたニコライは、淡々とすべての歯を抜き取り、指を切り落とし、袋に詰めて河に流す。だが、その非情なニコライが、娼婦の館で相手をしてくれた虚無的な女には、「まだ、死ぬなよ」と言い残して去っていく。
 やがてニコライは、料理店の店主にしてマフィアのボスの推薦でファミリーの一員に迎え入れられることになる。なぜボスはニコライを推薦したのか。そもそもニコライは何者なのか。儀式のあと、紋章とも言うべき刺青がニコライの胸に刻み込まれたとき、そのすべてが明らかになっていく……。
    *
 この映画にほとんど銃は出てこない。ナイフがノドを切り裂き、胸を貫く。その残酷なシーンにかぶさるように哀調を帯びた民族的な調べが流れる。それが、家族への深い愛情と他人への無慈悲さを併せ持つボスの存在とひとつになり、私に「ゴッドファーザー」を連想させることになったのかもしれない。
 もちろん、「イースタン・プロミス」には、「ゴッドファーザー」ほどの優雅な様式美はなく、スケール感も乏しい。そのかわりに、百分という短さの中で、ボスと息子と運転手という三人の男の愛憎が鮮やかに描き込まれることになった。
 だが、この映画を根底から支えているのはモーテンセンの肉体であるように思われる。公衆浴場で襲われたニコライが、素裸のまま敵に立ち向かう。その格闘シーンの徹底したリアルさが、むせかえるような血の匂いから出発したこの映画を、ミルクと酒の香りでまとめ上げてしまうという甘さから、救っているようにも思えるからだ。
    ◇
 14日から、東京・日比谷、大阪・梅田などで公開。順次、各地で。


by miyelo | 2008-06-12 14:34 | Eastern Promises


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